「グルジ-と私の旅」-B.K.S.アイアンガーとともに練習した40年から得た教訓と影響- -ボビー・クレネル-
初期の練習は散発的でしたが、私は、41年間、アイアンガーヨガの練習をしています。夫のリンジーと私は、39年前の1976年、B.K.S.アイアンガーのもとで学ぶためにプーネへ初めての旅をしました。ほとんどは夫と一緒でしたが、私は23回この旅をしました。
私が最初にヨガを始めた時、私は他のメソッドのことを全く知りませんでした。一人の友だちが、私にヨガを試してみるようにやかましく言って勧めてくれました、そして、私は友だちの言葉通りヨガに夢中になりました。その時、私にわかっていたことは、ヨガを練習すると、ヨガが私を爽快にしてくれること、そして、私が若い働く母親として、生活において必要とされることにより良く対処出来るようになったということだけでした。
ヨガクラスが行われていた教会のホールに初めて入ってから2年経って、私たちはB.K.S.アイアンガーのもとで学ぶためにプーネへ旅立ちました。他の先生を探そうという考えは、全く起こりませんでした。私の限られた経験によってさえも、私はこの先生とこの家族の側にいるべきだと言うことを本能的に知っていました。
グルジ-の教え方は、彼独特のものでした。その指導は情熱的で、技能や努力を多く要求し、極めて正確でありかつ無駄がなかったので、彼が言っていることは何でも、理解出来ました。しかし、彼の明らかに厳格な外見は、彼の思いやりのある心根を誤って伝えていました。グルジ-は、もし自分自身が「ソフト」に見えたら、進歩は遅くなり、「生徒が気楽な傾向になる。」ことを知っていました。そして、彼はプロの解剖学者が行うようなやり方で肉体を理解していました。(アイアンガーの先生たちも同じように身体を理解することを期待されます。)そして、アライメントが全てでした。
グルジ-は、人を見ることにおいて並外れた能力を持っていました。教える時には、恐ろしく表情豊かで詩的でした。そして、このことが、グルジ-が亡くなって、私が最も寂しく思っていることだと思います。B.K.S.アイアンガーをマスターたらしめているのは、彼のとても鋭い知性であり、彼のヨギの心であり、そしてまた他者に奉仕する不動の精神でした。
私がB.K.S.アイアンガーに会う前、私は「グル」と言うものは、少しサンタクロースに似ているだろうと想像していました。ソフトに話し、愛を込めて私の目をみつめて、優しく頭をなでるだろうと。その時、不思議にも全ての問題は、溶け去るのでした。私のプーネへの2回目の旅で、私はプーネのラママニアイアンガー記念ヨガインスティテュート(RIMIYI)の門を通って歩いて行きました。グルジ-は、たまたまその通路に立っていました。彼は、手のひらで私の耳をはさんで、「ああ、良いね。あなたの体重が増えたのがわかるよ。」と言いました。ちょうど一年前、門をくぐって行った若い女性は、痩せぎすでおどおどしていました。でも、その時には、新たなヨガの練習から生み出された新たな自信で、私は身体的に以前より強くなり、そして感情的には、より安定するようになっていました。
アイアンガーメソッドを勉強した最初の西洋人の一人であるユーディー・メニューインのおかげで、アイアンガーヨガは、イギリスで最初に根を張りました。それは、ロンドンじゅうの学校のホールで教えられている、認定されたヨガメソッドになりました。事実、リンゼイは彼の空いた時間に「夕方のクラス」のいくつかを教えていました。インナー・ロンドン・エデュケーション・オーソリティー(ILEA)は、B.K.S.アイアンガーのヨガには、まがいの呪文やわけの分からない言葉(あるいはインド哲学)がないと規定していることを歓迎しました。なので、グルジ-のヨガは、当時、いくぶん、ILEAの規定に影響されていました。チャクラや類似のものについて語る他の「メソッド」と違って、アイアンガーヨガは、身体的なものに於いて確立されていました。それは、実践的で、現実的で、体系的なものであり、私がヨガに出会った1970年代中頃には、だんだん弱まり始めたヒッピー文化への解毒剤的なものにもなっていました。
1988年、プーネで開かれたグルジ-の70才の誕生集中講座に参加していた私たちにとってメディカルヨガというものが、少し明確になりました。グルジ-の息子のプラシャントは、準備をしていた「プロップスと病気」と名付けた写真をピンで壁に止めていました。RIMIYIで現在週に5回行われているメディカルクラスは、様々な不調に苦しむ人々でいっぱいです。そして、それらはまたシニアティーチャーにとって実り多いトレーニングの場でもあります。患者ごとに特別に処方され(かつプロップスを用いた)シークエンスを、自分自身で患者たちにさせるようアイアンガーファミリーに教えられました。それらの「プロップスと病気」の写真は、グルジ-が知っていることと比較するとおおまかなものでした。しかし、それらは私たち先生がこの課題を理解するのを本当に助けとなってくれました。
B.K.S.アイアンガーは、プロップスの主な恩恵を神経制御として説明しました。「神経学」は、生命の中枢であると彼は言いました。あなた方は、神経を使い過ぎたり、イライラさせたりすることのない方法でプロップスを使うことができます。それどころか、プロップを使うことで神経を強くしたり、静めたりすることができます。テーブルやトレスラーや壁でさえも身体を安全に支え、保つことができるので、身体をより深く伸ばすことやり開くことを探し求めるために必要なエネルギーを自由に使うことが出来るようになります。このようにプロップスは、組織的な身体の動きの自由を制限することなく、外見的な身体を支え安定させることができます。
我々が対処療法の限界に目覚め始める時、時間だけがB.K.S.アイアンガーの業績がどれほど重要であり、またそれが人類にとってどれほど貴重になるかを告げることが出来るでしょう。
B.K.S.アイアンガーは、ヨガをより多くの人が実践できるものにするためにもプロップスを導入しました。彼は、熱心で厳格な教師として、しばしば一般の人々には厳しすぎると認識されていました。アイアンガーヨガを練習するために必要な不屈の決心は、最も強く打ち込んでいる生徒以外の誰にとっても手に余るものでした。
プロップスの使用は、現在でも発展し続けています。(あなたが前回プーネに居た時と指導法が全く同じように残っていると期待して、プーネに行っては絶対にいけません。)
1993年12月パンチガニでヨーガチャリアB.K.S.アイアンガーは、彼の75回目の誕生日の祝として10日間のワークショップを指導しました。世界中から100人の先生たちが、この特別なイベントに参加しました。この集中講座は、グルジ-の教授法に於けるターニングポイントとして特徴づけられています。その時、グルジ-が私たちの観察力に要求したことが、彼自身の絶え間なく進化し続けている練習に現れました。以前、彼の指導法の多くは、具体的なもの-筋肉、関節、骨などに基礎が置かれていたのに対して、グルジ-は、私たちを身体の外側の物理的な層、あるいは微細な(subtle)身体と呼んでいるものへ私たちを導きました。グルジ-のインド人の生徒Sam Moltivala(現在は故人)は、これらのクラスの1つに於いて「全てが新しく思えます。」と述べています。
私たちは、グルジ-によって、私たちの存在のより微細な側面を練習や教授法に組み込むように指導されました。私たちは、自然の要素、土、水、日、空気、エーテルについて教えられ、そしてそれらは、次に、意識の深い層へのガイドとして役に経ちました。アサナは、身体的追求だけの存在からは遠く離れていて、パタンジャリによって大変明確に定義された、私たちの内なる世界の神を経験するための小道にある飛び石になりました。B.K.Sアイアンガーのヨガは、彼の発達した身体の理解に基礎を置いていました(今も置いています)しかし、今は、それは、古代のヴェーダの先駆者によって詳細に描かれた微細な身体における基礎としてしっかりと根付いています。グルジ-は私たちに、ヨガは肉体と知性を統合するために、知的な反応と熟練した動作を必要としていると教えてくれました。
私たちが約9人の生徒のクラスに参加していることがわかったのは、私の2度目の旅の間でした。当時を振り返ってみると、私は私たちがどんなに幸運だったかよくわかります。私がバランスポーズ、あるいはバードポーズ(Bhakasana,Parsava,Bhakasana等)を習ったのは、そのような小さなクラスの1つでした。B.K.S.アイアンガーの教授法については、特別な何かがありました。グルジ-がクラスを指導している時、彼があなたに教えたことをあなたは決して忘れることはないでしょう。彼は、あなたを更に進歩させて、あなた自身では成し得ないことを成し遂げさせる方法を持っていました。71歳の今でもまだ私は「バランスポーズ」をすることができます、そして、私が「バランスポーズ」をするたびに、煌めく遠い昔のクラスが深く影響する何かがきっとあるのだと思います。
また別の場面では、私はマン・ツー・マンでグルジ-から教えてもらうという幸運な経験をしました。ある朝の自主練習時に、ピーンチャ・マユーラアサナ(エルボーバランスとしても知られている孔雀のポーズ)からベンチにおりた後、私はそのままジャンプしてスタンディングに戻ろうとしました。私は、グルジ-が逆さまにロープにぶら下がって、私の背後にいることに気づきませんでした。突然、地球の深部からやって来たような声がどこからともなく聞こえました。「もし私が、お前がこれまでしてきたようなやり方でヨガを練習していたならば、私は今どこにいると思う?」グルジ-が私を見ていたので、ショックを受け、困惑して、私はもしグルジ-が、私がここ数年練習していたような方法で練習していたならば、私たちはみんな今頃、どうなっていただろうと返答しました。それは効果てきめんでした。笑いながら、逆さまにぶら下がったまま、グルジ-はインストラクションを始めました。もっと小さなベンチを取って来なさい。それを柱にぴったりつけて置きなさい。マットをちょうどそのように折りたたみなさい。そして、グルジ-はロープからおりると、私の個人レッスンが本気で始まりました。その経験は、その中にアサナの身体的なポイントよりもっと多くのことを含んでいました。そして、グルジ-は大いに楽しんでいました。私自身は、どうかと言うと、恐怖心と与えられた活力が等分になった状態で、精神的にも身体的にも普段の限界を越えて張り詰めていたので、私は極限状態でした。
グルジ-はクラスの中でいつも私たちに気を抜くことを許しませんでした。しかし、彼とのマン・ツー・マンは、それ以上に強烈でした。頭のなかではずっと、そんなことはできるわけがないという声がこだまし続けていました。
最近、私は彼の側に居るためだけに毎年戻っていました。
今、私たちは過渡期にいます。偉大な指導者は亡くなったのです。過去と未来の間に一時停止している間に、私たちは、彼の遺産について考えます。B.K.S.アイアンガーが、もう私たちと一緒に存在しないことを信じることは耐え難いことです。グルジ-が、まだプーネで世界中に広まったアイアンガーヨガの舵をとっていることを知ること、毎日生徒のそばで練習すること、全ての手紙に個人的に返事すること、偉大な人物でもあるにも関わらず、とても謙虚で、可能な限りの全ての人に会うことなどが、私たちをこのメソッドの源泉に結びつけ、私たちに安心感を与え、基礎の力を与えました。
B.K.S.アイアンガーは、本当に並外れた人です。彼の影響は、直接であれ、間接であれ、彼と共に学ぶことが出来た世界中のヨガの先生や生徒の上にあまねく広がっています。B.K.S.アイアンガーの前にあったもの、B.K.S.アイアンガーの後にあったもの(あるもの)2つのものの間を比較することはできません。
本当に彼は、彼がこの世界から得たよりもっと多くのことを与えました。B.K.S.アイアンガーが強力で妥協しない統制力を持ってプログラムした、進歩的で、スマートなティーチャートレーニングは、来たるべき歳月に於いても、アイアンガーヨガの継続を確実にするでしょう。彼の息子のプラシャントと娘のギータは、何年もの間、教え続けています。事実、アイアンガー先生に一度も教えてもらったことがない何世代もの先生や生徒の一団が、彼らのグルジ-としてプラシャントやギータに教えてもらうためにプーネに集まっています。
未来に関しては?私は、最近、アイアンガー先生の孫娘、アビジャータ・アイアンガーが指導する北イングランドのコンベンションに参加しました。それは彼女がヨーロッパ中で教えている5回のコンベンションの第1回目でした。彼女の祖父への献身は、明らかでした。彼女の教授法には、その血の中を流れているアイアンガー先生から受け継いだものがはっきりと見て取れました。RIMYIで自主練習が行われるほとんどの朝、グルジ-は練習と同時になんとかして、その部屋にいる中で一番理解力がある孫娘アビジャータを教えていたものでした。
私たちが練習をする限り、グルジ-は生き続けるでしょう。私たちすべてのなかに、私たちの身体の細胞の中に、膝頭のリフトのなかに、私たちの足と神経システムの強さのなかに、私たちの感情の安定のなかに、集合的なバランスと釣り合いのなかに。私は、彼を知り得たことにとても感謝しています。そして、彼の強烈な信念、彼の清らかさ、彼の賢明さに感謝しています。
今は、私たち次第なのです。
「私の終焉があなたたちの始まりとなることが、私の深い望みです。」
B.K.Sアイアンガー 2014年8月
*ボビー・クレネルさんは、ニューヨーク市に住むアイアンガーヨガのシニアティーチャーです。彼女は、”The Woman’s Yoga Book”と子どもの本”Watch Me Do Yoga”の著者でイラストレーターです。ボビーさんに関する情報は、彼女のウエッブサイトwww.bobbyclennell.co. を見るか、彼女のツイッター @bobbyclennell をフォローして下さい。
<出典>
Yoga Dork
"My Journey with Guruji: Lessons and Reflections From 40 Years of Practice with B.K.S Iyengar"
-by Bobby Clennell –
http://yogadork.com/2014/09/10/my-journey-with-guruji-lessons-and-reflections-from-40-years-of-practice-with-b-k-s-iyengar-by-bobby-clennell/